菊月或斗@幾何学世界紀行

どうも菊月です。ブログのほうを始めました。小説やアレやコレを投稿していきたいと思ってます。よろしくお願いします。

秘封倶楽部と揺蕩うセカイ #3

―5―
過去滞在1週間目。遂に宇佐見菫子が動き出した。私たちが未来から来たと信じきれていないのか、隠しているようだった。ただ、少し不器用で、隠しきれていなかった。彼女はちょっと友達と遊んでくるとか言っていたが、1週間ここにいてわかることがある。とてつもなく友好関係のない彼女が友達と遊んでくるなんて言うわけがないのだ。
「というわけで」
「何がというわけでなのよ」
「何がって……尾行するに決まってるじゃない」
「蓮子……確証もないのにそんなこt」
「その時はその時よ」
「まだ話してるでしょうが! それに――」
後ろでメリーがガヤガヤと何か言っているが、私たちは彼女を尾行することにした(蓮子の独断)。
私たちが起きた時にちょうど、宇佐見菫子が家を出ようとしていた。時刻は8時ほど、そこそこに早い時間だ。
「じゃ、私は行ってくるから」
「いってらっしゃーい」
さぁて……。ドアが閉められる音とともに、私はメリーを呼びに行った。
「メリー、行くわよ」
「本当に行く気?」
メリーからは困惑の表情が伺える。どうやら本気で心配しているようだ。
「何の為にここまで来たのよ」
「そうだけど……」
ぐずぐずとしているメリーに嫌気がさし、私は半ば強引にメリーの腕を引っ張った。
「あっちょっと!」
「ほらほら、行くわよ!」
「もう……」

「――博麗神社?」
「博麗神社って、結構前に廃社になった神社だよね」
私達が辿りついたのは寂れた神社だった。私達の時代から結構ボロボロだったのだが、この時代も大差なかった。
「この神社が何か関係が――」
「黙って!」
私はメリーの口を塞いだ。私達の声に気がついたのか、菫子は私達の方をちらちらと見ていた。
「いきなりなんなのよ」
「静かに。菫子さんがこっち気づいたかも」
「えっ」
私達はとっさに近くの木陰に隠れた。
「やばいわね……」
気がつかれたのだろうか? 宇佐見菫子はまだこっちを気にしていた。が、何事もなかったかのように先ほどまでいた場所へと戻っていった。
「ふぅ……やり過ごせた」
「もう少し慎重に行きましょう」
少しオーバー過ぎただろうか。相手はかなり敏感なようだ。気をつけないと。
すると、踵を返し、宇佐見菫子はそさくさと神社から離れていった。
「――? 帰るのかしら」
少し遅れて私たちも神社からでた。距離を詰めないように気にしながら神社の階段を下り、角を曲がった。
しかし、そこには、無表情で仁王立ちする宇佐見菫子がいたのだった。
「――!?」
しまった。やはり気づかれていたようだ。
「あなた達、ここで何を?」
宇佐見菫子の表情は変わらないままだったが、その雰囲気は怒りで満ち溢れている。
「い、いゃあ〜その、じ、神社にお参りを〜」
咄嗟にメリーが安い芝居――あまりのつまりように私と宇佐見菫子も呆れ顔をしていたが――を打つ。
「……別にあなた達がどうしようが勝手だけど、迷惑かけないでよね」
無表情のまま宇佐見菫子はそう言い残し、立ち去った。
「ふぅ、追求されなくて良かった」
胸の奥のしこりが取れたように、気分はすっかり元に戻った。
すると、隣からなにやら不吉な笑い声が聞こえた。見てみると、笑いをこらえようとしているのか、気持ち悪い――『くくくっ……(ゲス顔)』みたいな雰囲気――顔でメリーが笑っていた。
「何笑ってんのよ気持ち悪い」
ど真ん中真っすぐの剛速球をぶち込む。メリーはあまりメンタルは強くないので、暴言をぶつけるとすぐに泣き顔になる。
「ちょっと蓮子、言い過ぎよ〜」
「だから何笑ってたのよ」
「まぁね」
「まぁねじゃないわよ」
「所謂、『計画通り』ってやつよ」
「……なにそれ」
メリーはスイッチが入るとすぐにこうなる。裏の顔というやつだろうか。
「菫子さんは『どうしようが勝手だけど』って言ったわよね? この言葉が出た時点で勝ちなのよ」
……なるほど。見つかった時点でかなり焦っていた私はそこまで頭が回っていなかった。こいつのゲス顔からするに、あの安い芝居自体がメリーの演技だったのか。
「なんでそれが計画通りになるの? あんた尾行するって言った時あんま乗り気じゃなかったじゃない」
私が言うと、メリーはまたにんまりと笑った。
「昨日の蓮子の顔を見れば何か企んでることぐらいわかるわ。 蓮子の考えることなんて『追跡』『盗撮』『盗聴』。 そこら辺でしょう?」
「昨日からここまでの流れを推測してたと」
「そゆことね」
恐るべし女。もはやこいつが主人公でいいんじゃないか。
しかし、メリーの行った通り、『どうしようが勝手だけど』からさっするに、宇佐見菫子は周りを気にしない、自分の意思で動く人間。すなわち――。
「……尾行しないで、堂々とついていける……?」
「あら蓮子。さっしがいいじゃない」
「舐めんな」
「へ~い」
そんな話をしていると、既に日が傾いていた。今日のところは体を休めて、次に備えよう。
強く吹いた風が、どこかと風鈴をならした――。


とある神社の屋根の上、結界の妖怪と紅白の巫女――。

「なんだったのよあいつら」
「どこかの大学の境界破りよ」
「はぁ? なにそれ。こっち側に来る気か」
「1人は高校生。イレギュラーね。今までのあの子達にはついてなかった」
「話きけよ。 って、あの子達って誰……あぁ、前に話してたあんたが気にかけてた」
「――宇佐見菫子。このイレギュラーが物語をどう進めるか。楽しみだわ」
「なんだかよくわかんないんだけど」
「ふふ……楽しみにしてなさい。あの2人は、なかなかに面白いわよ」
「何上から目線してんだババア」
「あ゛?」
「お? やるか?」
……宇佐見蓮子マエリベリー・ハーン。それに、宇佐見菫子か。
今回の世界は、少しは楽しめそうね。


―6―
翌日、私とメリーは2人だけで博麗神社へと向かうことにした。が、あいにく天候は雨である。私は雨は嫌いだ。まるで涙のように、心の奥に溜まった感情が溢れ出すみたいで――。
「あからさまにテンション落としてるわね」
「うっさい」
「それにしても、なんで雨降るのかしらね。蓮子って雨女だっけ?」
「それはメリーのほうでしょ」
メリーは「ないない」と言わんばかりに、顔の前で手を横に振った。
そうこうしているうちに博麗神社に到着した。雨に打たれ、より一層寂しげな雰囲気を醸し出している。
「到着ーっと」
今日はあくまで下見。宇佐見菫子がここで何をしていたのかをつきとめることができれば上出来だろう。
「どう? 何か視える?」
「ちょい待ち」
ご存知かもしれないが、メリーには世界と世界の境目、境界を視ることが出来る。あの本の通りならば、ここに別世界《幻想郷》に繋がる境界があるはずなのだ。
「んー。何か大きな力が働いてるのかしら。境界みたいな雰囲気はあるんだけど……」
「そう」
「何よ。知ってたような顔して」
「ほら、この前菫子さんについてきた時、メリー何も言わなかったじゃない? 大きな結界があるなら気づくでしょう」
「そうだけど――」
神社の裏で憶測を話していると、途端に雨が止んだ。それと同時に、背後から聞き覚えのない声がした。
「――あるわよ。結界」
私とメリーは同時に振り返る。すると、神社の屋根に、紅白の巫女服を着た女性がいた。
「結界があるって……どういうこと?」
「そのまんまの意味よ」
巫女は言った。私たちを見下すような、どこか上からな言い方だ(実際に見下ろされている訳だが)。
「まあ追求しなくても、いずれ分かるわ」
すかさずメリーが反応する。
「まるで未来がわかるような言い草ね」
「そりゃそうよ。私、この時代の人間じゃないもの」
この時代の人間じゃない……? 未来から来たのか? 隣のメリーも訝しげな顔をしている。一方紅白の巫女は、まだ何か言いたげな表情をしていた。
「あんた達の知り合い……あ、まだ知らないのか。まぁ頼まれたのよ」
「頼まれた? アンタ一体何者――」
私が言い終わる前に紅白の巫女は口を挟んだ。
「だーかーらー、じきにわかるって――」
その言葉と同時に大きな風が吹いた。砂埃に思わず腕で目を隠した。
すぐに紅白の巫女のいたところに目をやるが、やはりそこには既にいなかった。風と共に消えてしまったのだ。
「なんだったのかしらね……」
「……」
……一体誰だったのだろう。全てを見通しているような、あの人物は。
「一旦帰りましょう」
「……そうね」
「……? 蓮子?」
「ん? ああごめん」
あまり深く考えない方が身のためだろうか。私は、『じきにわかる』という言葉が気にかかっていた。『じきにわかる』ということは、近いうちに私たちはここの境界を暴きにくるということ。あくまで推測の域を超えないが、あの巫女はここの神社の巫女だろうか――。


歩くこと数分、私たちは近くのファーストフード店でご飯を食べることにした。
「それにしても……ここのあたり変わらないのね……」
「そうね、この時代の東京っぽくない感じ」
私たちの時代では、東京は古臭さを感じるような町並みだが、この時代の東京はどこの都市よりも発展している。そんな東京でも、田舎のような場所があるとは知らなかった。
店を出ると一つ先の道路がなにやら騒がしくなっていた。
「……なにかあったのかしら?」
その道路を堺に、都市と田舎が分かれている。道の片側は住宅街になっているが、もう一方はファーストフード店やガソリンスタンド、コンビニなどが並んでいて、異様な光景である。
「何事件? 脈絡がないなぁ」
「少し気になるわね」
一目でいいから見ておきたい、とメリーが言うので、騒がしくなっている方へと向かった。
その道にでると、警察や救急車などが多く止まっており、殺人でも起きたのかと思わせる雰囲気をしていた。
「物騒な時代ね」
「私たちの時代と大差ないでしょ」
「ま、そうだけど」


私たちは宇佐見菫子の家に帰ったが、先程事件のあった場所の近くだったため、サイレンやざわつきが少し聞こえていた。
「あら、お帰りなさい。ねぇ、さっきから外が騒がしいけど、何かあったの?」
「さあ? 少し見てみようと思ったけど、ざわつきが凄くてね」
帰宅早々と宇佐見菫子が聞いてきた。ふーん、とあまり興味を示さなかったような返事をした。
「そういえば菫子さん、あの神社で何をしていたの?」
メリーが単刀直入に聞いた。こいつの事だから、何か考えがあるのだろうか。
「もうあらかたわかってるんでしょ? 私は明日にでも行くわよ」
「行くって、何処に?」
メリーの口元がニヤリと歪んだ。すると、宇佐見菫子は表情も変えずにこう言い捨てた。
「あんた達の言う別世界ってやつよ」
「へぇーそうなの」
「……ついてくる気ね。迷惑かけないでよね」
「ええ、もちろん」
……相変わらず怖いやつだ。
「さてと蓮子、明日は楽しめそうね」
「……そうね」
いったいいつ頃からこんなに積極的になったのだろう。まあいいか。ついにここまで来たのだ。引き下がるわけにはいかない。
――宇佐見菫子失踪の真相は、もうすぐそこだ。