菊月或斗@幾何学世界紀行

どうも菊月です。ブログのほうを始めました。小説やアレやコレを投稿していきたいと思ってます。よろしくお願いします。

幾何学世界紀行 序章『再会』

今生きている世界以外に、別の世界があるなら――そんな、「鏡の世界」に迷いこんだ、1人の男のお話。

―0―
望月永斗は混乱していた。いつも通りに、22時きっちりに寝、朝起床したはずだった。しかし、目に飛び込んだのはいつも見ていた自室の天井ではなかった。が、見覚えがない訳ではなかった。永斗は大学生のころに、とある教授に「鏡世界」と言われる別世界について教わったことがある。その時に見せてもらった本に書いてあった街の風景が、今目の前に広がっているのだ。
それよりも、驚いたのは他にあった。――寝ていたという感覚がない。まるでただ目を閉じていただけのように。例えるなら、瞬きの間に風景が変わった気分だ。
どこかの道路の端に立っていた僕に
「――あれ、永斗先輩ですか?」
と、突然声をかけられた。
「誰――って、なっ!?」
「あーっ! やっぱり永斗先輩じゃないですかヤダー!」
「く、紅葉……?」
これが、僕の運命を(悪いほうに)大きく変えることになる出会いとなるのだった。


白金紅葉と再会した僕は、とりあえず落ち着いて話せる場所に移動しようと提案した。すると紅葉は、「私の家でいいですか? ここから近いですし」と言った。多少の不満はあったが、僕は了承した。今は紅葉の家に移動中だ。
「イヤーまたまた永斗先輩と会えるなんて思ってもいませんでしたよもー」
紅葉は笑いながら僕の肩を叩く。
「僕だって君とまた会えるなんて思わなかったけど。呪われてるのかな」
「そんなことより永斗先輩、こっちに来るなら言ってくださいよ」
言えるわけがないだろう、と心の中で毒づいた。
こいつ、白金紅葉は僕の一つ下で、高校大学と同じ学校に通っていた。帰り道が同じだったことから、よく一緒に帰っていた(紅葉が一方的に話してきて、僕が曖昧に返すだけだが)。
しかし、別れは突然やってきた。大学二年の冬、白金紅葉は忽然と姿を消した。まるで、もともと存在しなかったかのように。
「ちょっとどうしたんですか、だんまりしちゃって」
「あぁ、ちょっと考え事してた」
「あ、私に会えて嬉しいんですねワカリマス」
「分からないな」
「エーそりゃないですよもう」
僕は、ああそういえばこんな奴だったなあと思った。
「なあ紅葉、一体此処はどこなんだ。まさかとは思うが、」
次の言葉を発する前に、紅葉は「そのまさかですね」と答えた。
「ここは『鏡世界』と呼ばれる異世界です。妖怪、あやかし、魔などが人間と共存する不思議な世界ですね。先輩もあの変人教授から聞いたんですか?」
「ああ」
「やっぱりですか。まぁそれはいいとして」
一体何がいいんだ。
「永斗先輩はこのあとどうします?」
それを僕が聞いてるんだが。
「住むところもないですし大変じゃあないですか?」
「待て、住むところもないって、僕がここに住む前提で話をしないでくれ」
「えーだってそんな早くに帰れないですよ?」
「え?」
「え? じゃないですよ」
「とまあ話は戻りますが住むところもないって大変じゃあないですか?」
なんと強引な。
「まあ大変だな」
「なので私と一緒に住みましょう」
いきなり何言い出すんだこいつは。
「いいじゃないですか。食事と寝床が手に入るチャンスですよ」
「なんでまたお前の家に。他にも……」
「他にも?」
「……」
僕の無言の前に、紅葉はにんまりとして「ないじゃあないですか」と答えた。
「この世界のことなら私の方がよく知ってますし、そういうことで行きましょうよ」
「……しかたないか」
「ん? なんか言いました?」
なんにも、と答えようとするが、その言葉は紅葉の言葉に遮られた。
「着きましたよ」
「思ったより早いな」
「さ、入ってください」


「あ、おかえりなさい」
「ん、ただま〜」
家に入ると、早々に誰かが迎えてくれた。紅葉は一人暮らしではないのか。
「妹の雪です。この家では二人で暮らしてます」
へえ、とテキトーに返してやった。
三人はリビングへと向かい、僕の向こうに紅葉と雪が並ぶように座った。
「あ、雪。この人は望月永斗さん。今日から私たちと一緒に住むのよ」
「あれ、紅葉姉さん彼氏いたんだ」
「まあね」
まあねじゃねぇよ誤解されるだろう。
「えっと、妹の雪さんでしたっけ。望月永斗です。よろしく。それと、僕とこいつは付き合ってないから」
「雪でいいですよ。敬語も結構です。よろしくお願いします」
「さて、永斗先輩。話の続きを」
「なんの話だ」
「これからについてですよ」
これから、か。ずいぶんとアバウトなことだ。確かに、生活・仕事・etc……考えなければならないことは沢山ある。
「生活はここに住むところが決定したのでいいでしょう。問題は仕事です」
「お金は現実と同じなのか?」
「はい。あ、大事なことを言い忘れてました」
なんだ。話を変えるならもう少し丁寧にしてくれ。
「この世界はほぼ現実と隔離されています。そして、国という概念がなく、ところどころに街がある感じです。それと、一番大事なのは――この世界の人間はほぼ日本人です」
ほぼ日本人? どういうことだ。
「永斗先輩みたいに突然迷い込むのが日本以外では起きてないみたいなんです。日本にいた外国人が来ることもありますが、ほとんどいません。さっきは会いませんでしたが、この世界にもそれなりに歴史があるので、結構人はいますよ」
確かに大事な話だな。まとめると、
・この世界の人間はほぼ日本人であるということ。
・国はなく、街が集まった世界ということ。
・ちゃんとした歴史があるということ。
といった具合か。
「話は戻りますが」
やはり強引だな。
「仕事についてなんですけど、これは永斗先輩しだいです」
「ん? どういうことだ?」
「一番手っ取り早いので、私と働くというものが、」
「却下だ」
「話ぐらい聞いてくださいよ」
「お前のすることだ。どうせ碌でもないに決まってる」
「そんなことないですよ」
「じゃあなんだ。言ってみろ」
「探偵……とは違いますが、探偵という表現が近いと思います」
「探偵?」
「探偵というよりかは何でも屋ですね。依頼されたものをこなす、簡単なものです」
ふーん、と半分笑うように言った。紅葉は少々ふくれっ面になっている。
「最近多いのは、なくしたものを探したり、妖怪の討伐とかですね」
「妖怪の討伐? なんだそれ」
「あ、興味持ちました?」
紅葉の顔に笑みがこぼれた。
「やりたくはないがな」
「いや、やりましょうよここは」
「やらないな。それより、近くでバイトとか、」
「一緒にやってくれないとここに住ませませんよ」
最悪の手段を用いてきやがったな。お前はどこぞの詐欺師か。
「はいはいわかりましたやればいいんでしょやれば」
「わかればいいんです」
こいつにはこれが手っ取り早い。それに、この世界に関して僕は無知だ。紅葉に任せていれば大丈夫だろう。
先程は呪われているなどと言ったが、ここは前言撤回しよう。妖怪やらなんなやらがいる世界で、紅葉と会えたのは完全にラッキーじゃないか。天は僕に味方したのだ。――と、考えるしかないか。
こうして僕の異世界紀行一日目は終了した。


――続く