菊月或斗@幾何学世界紀行

どうも菊月です。ブログのほうを始めました。小説やアレやコレを投稿していきたいと思ってます。よろしくお願いします。

秘封倶楽部と揺蕩うセカイ #2

―3―
結果から言うと、実家では収穫は得られなかった。どうやら祖母が引っ越してきた時に処分されたようだ。
「はぁ……振り出しか……」
「そうね……って……?」
メリーが何かに気づいたみたいだ。するとメリーは家の2階を指さして言った。
「――何かがおかしい。この家」
「え?」
「確か、1階には階段の向こう側にも部屋があった。1階には部屋が四つ、窓の前に1つ部屋がある感じね。でも、2階には階段の向こうに部屋はなかった。でも部屋は四つ。それなのに部屋の大きさは変わらなかった。これだったら、2階だけ少し大きくなるはずじゃない?」
言われてみればそうだ。少し違和感を感じたのはこれだったか。
「宇佐見菫子さんが何かの力を使ったのかしら。確か、超能力者って言ってた」
「にわかには信じ難いけど、私たちも大差ないし」
「まぁね。でも、そこで力を使う必要性って、あるのかしら?」
「蓮子にしては鈍いわね。考えられるのはひとつ。1階も本当は階段の横の部屋を除いて、部屋が4つあるってこと」
「それってもしかして――」
「隠し部屋ね」
そういうことか。あれ程までに調べあげていて、何も残っていないのはおかしい。家の構造にまんまと騙されてしまった。
「メリー、早速行くわよ」
「言われなくても」
1階の最も端に着いた。1通り見てみたが、何かスイッチがあるわけでもなさそうだった。
「ハズレかしら」
「まだわからないわ。壁を叩いて、空間があるか確かめよう」
「なかったとしたら向こうは外でしょ。音は変わらないわ」
今日はメリー頭が切れてるな、と思いつつ、何かのいい案がないか考えていると、時刻はすっかり13時を超えていた。
「もう時間も時間だし、お昼にしましょう」
「そうね」
とりあえず今は撤退。少し考えが必要そうだ。
近くに某ハンバーガーショップを見つけ、そこで食べることにした。
「んん……カロリーが……」
「気にしない気にしない、今回もだいぶ動き回りそうだしさ」
「それもそうね……」

お昼ご飯を終え、もう一度家に向かう道中、とある高校の前で立ち止まった。
「東深見高校か……」
「メリー、何かこの高校が気になるの?」
「いやさ、このへんの高校ってここぐらいしかないっぽいんだよね」
「……といいますと?」
「……無駄足かな?」
スマホ片手に地図の検索をするメリーを他所目に私はかなり落ち込んでいた。あんれえ?さっきまでの無駄な探索はなんだったんだろうなあ?
「まあよかったじゃない」
「よくないわよ……」
そんなこんなで、宇佐見菫子の高校を見つけた2人だった。
「メリー、この後どうする?」
「もう3時前だし、帰りましょ」
「OK。私は家に帰ったらもう少し祖母の遺品をみてみるわ」
京都へと帰り、明日また散策することになった。あまり進歩なかったけど、高校を見つけただけでも良しとしよう。
その日の夜、私はあの本を読み返してみた。疲れからか、うとうとと眠りそうになり、ついに本を開けたまま、私は意識を手放した。
気がつくと、私は何処かの道に立っていた。どうやら今日行った東深見高校の前のようだ。夢かと思い、咄嗟に頬を抓る。痛みは感じない。夢?でも、あまりにも現実味を帯びている。不気味なほどだ。
「また明日ね!菫子!」
高校のほうからそんな声が聞こえた。
「じゃあねー」
そう言って菫子と呼ばれた少女は歩き始めた。
まさか……彼女が宇佐見菫子?私は後を追ってみた。メリーが言っていた夢の世界なのか?道行く人の肩にぶつかりそうになったが、すり抜けた。これが夢であることは確かみたいだ。だが、もし本当に夢の世界として宇佐見菫子を見ているとしたら。彼女がどんなことをしていたのかがわかる。信じ難いが、これほどまでに現実味を帯びているんだ。信じるしかない……。
彼女は私の実家に入っていった。今に比べると随分と綺麗だ。彼女はそのまま1階の奥へと進んだ。
……あそこって確か、隠し部屋があるかもしれないって場所……。もしかして――。
そうすると彼女は1番奥の部屋へと入った。
……なんだ。隠し部屋ではないのか。でも、あの部屋って何もなかったけど、処分される前はあの部屋だったのかな。
私も続いてその部屋に入ると、彼女の姿はもうそこにはなかった。
――!?どこに行った?確かにこの部屋に……そうか!わかった!あの廊下に隠し部屋の扉があったんじゃない。この部屋からじゃないと入れないんだ!どうやら先入観に囚われていたようだ。
しかし、ここで視覚・聴覚にノイズが入る。同時に猛烈な頭痛が頭を襲った。
「くっ……」
私はしばらくその場に蹲っていた。目を開けると、そこは既に自室となっていた。どうやら夢が覚めたようだ。
「……メリーと同じように、境界を越えた?でも、私にはそんな力は……」
メリーはよく『夢の世界』の話をしてくれた。私もそこについて行ったことが何度かあるが、私一人のことは無かった。
――宇佐見菫子が私にビジョンを見せている?――
とにかく明日、メリーにこの事を話さなくちゃ。
この時から私は、薄々ではあるが、宇佐見菫子の気配を感じていた。着々と進んでいるといいのだが……。


―4―
「蓮子が……夢の世界に?」
「そうなのよ。不気味なくらい現実味を帯びていたわ」
「おかしいわね。私は何も無かったのに……」
私たちは実家へと続く道(駅から歩いて20分程度)を歩いていた。今日は昨日視た夢の検証をしに行く。肝心なところはわからなかったが、メリーが『まぁなんとかなるんじゃない?』と言っていたので、そうする事にした(私もそう思っていた)。
「蓮子のその目って……なんか、日々進化してるわよね」
「え?どういうこと?」
「ほら、前までは日本時間しかわからなかったじゃない?それに昔は私の視ている夢も共有できなかったし」
「そうね」
言われてみればそうだ。この目……まだ何か、秘密があるのか……?
「ところで蓮子」
「何?」
「私たちキャラ被ってない?」
「じゃあ何?やっぱりメリー、スーパー可愛い不思議系美少女になりたいの?ぶりっ子なの?」
と、私は応えた。その瞬間私の頭上に拳骨が振り下ろされたのは言うまでもない。
「まったく……」
「すいまへん」
「反省して?」
「申し訳ありませんでした以後気をつけます」
「よろしい。ところで蓮子?ついたわよ?」
「はいメリー様」
「そこまで改めなくても……」
「いいの?じゃあ可愛い可愛いメリーちゃん、飲み物を買ってきてくれるかし」
再び拳骨が振り下ろされたのは言うまでもない。
「痛い(泣)」
「あんたねぇ限度ってものが」
「とにかく近くの自販機寄っていい?喉乾いちゃってさ」
家から飲み物を持ってこなかったのがいけなかった。完全にミスだ。
「いいわよ。ほら、あそこにあるじゃない。そこの曲がり角」
「本当だ……って遠っ」
数分後……
「ああ……生き返るわぁ」
「それは良かった。って、早く入りたんだけど」
「んー」
それにしても、メリーも随分と成長したなあ、と思う。前までは、私が動くまで動こうとしなかったのに。それに比べて私は――。
「何?夏バテ?あんたボーッとしすぎなんじゃない?」
「ごめんごめん」
そうして私たちは再び実家へと訪れた。一番奥の部屋に入ると、メリーの表情が少し変わった。
「どうしたの?不思議系の力が発動したの?」
「貴方の方がよっぽど不思議系よ。そんなことよりここ、だいぶ結界が歪んでる」
「結界が?」
メリーの目は結界の境目を見ることができる。ここから隠し部屋への道も見えているのだろうか。
「隠し部屋があるならここね」
メリーはなぞるように壁を指さすと、その壁に手を当てた。
「おかしいわね。もう少し結界が崩れてていいと思うのだけれど」
「何か仕掛けがあるのかな。ちっと見てみよう……」
メリーの指さした壁を見に行こうとした時、視界が大きく揺らいだ。立ちくらみと同時に視界にノイズが入る。まるで、あの夢のように。
「何……っ」
「ちょっと蓮子!?大丈夫!?」
私は崩れるようにそこに倒れた。メリーの呼びかけもみるみる遠のいていく。息をするのが辛い。そのまま私は、流れに身を任せるように、意識を手放した。

気がつくと、そこはどこかの部屋のベッドの上だった。
「ん……なんでこんなとこに……」
隣のベッドではメリーが寝ていた。私が倒れた後にメリーも倒れたのか?
「ふわぁ……あ、蓮子おはよう。……ってここどこ!?」
「声がでかい!私もわからないや。病院……ではなさそうだけど」
メリーも倒れたのだとしたらここに連れきたのは誰なのだろう。すると、ドアが開く音がした。そこから1人の女性が現れた。……高校生だろうか。
「あら?目が覚めたの?」
「れ、蓮子。誰?」
「知らないわよ」
「なんで私の家で倒れてたのかは知らないけど、とりあえず寝かせてあげたんだから感謝しなさいよ」
――私の家?どういうこと?そこで私は気づいた。この声と風貌には見覚えがある。
「私は宇佐見菫子。よろしく」
やっぱりか。メリーは案の定驚いているが、ここは冷静にいかないと。
「ちょ、ちょっと蓮子。な、な、なんで宇佐見菫子さんがここに」
「焦らないで。冷静に」
宇佐見菫子は目の前で首をかしげている。
「なんで家で倒れていたの?」
「単刀直入ね。いいわ。答えたげる」
「私は宇佐見蓮子。2096年から来ました」
「蓮子?どういうこと?」
「目の前に宇佐見菫子がいるからそうじゃないかと思ったら案の定よ。携帯を見てみて。2009年になってる」
「あら、ほんと」
「何?あなた達未来から来たの?」
「まだ確証はないけどね」
私たちはここで眠っているまでの経緯を話した。どうやら過去の世界へときてしまったみたいだ。
舞台は過去。84年の時を遡り後退したセカイ。此処から蓮子たちは何を得るのか。物語は続く。


――月光に照らされた夜空に、妖怪が1人。
「過去にまで戻るなんて。能力が強まってるのかしら。……幻想郷に来なければいいのだけれど――」

「――『私』になっちゃダメよ?メリー」