菊月或斗@幾何学世界紀行

どうも菊月です。ブログのほうを始めました。小説やアレやコレを投稿していきたいと思ってます。よろしくお願いします。

幾何学世界紀行 第1章『消失少女』act. 2「アビリティ・ホルダー」

「おっ、紅葉ちゃんじゃねぇか」
紅葉の案内の下、僕と紅葉は警察署へとやってきた。 警察署は、日本(前の世界)のそれより少し古風、否、中世ヨーロッパのような雰囲気すら感じさせる。
と、警察署から誰かが出てきた。
迎えたのは、僕達が会いに来た相手である、音無伸司だった。
「音無警部! お久しぶりです。 ちょうどいいところに来ましたね流石です」
と紅葉。
「なんか話か? ……って、隣の男、彼氏か?」
音無警部だ。 声はそれなりに低く、がたいはなかなかにいい。
しかし、決して彼氏ではない。
「そうなんですよ」
と紅葉。 またそのネタか。
違いますよ。
「そうか! そりゃあ良かっ――」
音無警部が言い終わる前に、僕の拳は紅葉の脳天に直撃した。
「違いますから!」
紅葉の痛いという声は聞こえなかった。 うん。


「あぁ、あの失踪事件か」
いろいろとあったが、音無警部に会いに来た理由をひととおり説明し終えた。
僕たち三人は、警察署のある部屋へと入り、そこで話し合うことになった。 部屋は、テーブルと椅子、窓だけであり、白で統一されている。
「結花から聞いた時は俺も驚いた。 市橋双葉。 結花の友達だ」
音無警部が言った。 そういえば、依頼主の音無結花の父親だったか。
警部はさらに続け、
「正直言って、殆ど情報が無いんだ。 両親は幼い頃に他界しているらしく、捜索届も出ていなかったからな」
と言った。
「結花から聞いたんだが、市橋双葉は大人しい性格で、社交的ではなかったそうだ」
「社交的ではなかったと……」
二人は表情を曇らせた。
このままじゃ埒が明かないな。
僕は思考を巡らせ、考えたことを片っ端から言うことにした。
「家出とかじゃないんですか?」
音無警部に問う。 すると、音無警部ではなく、紅葉が答えた。
「両親は他界してると言っていたじゃないですか。 家出はないです」
「一番考えられるのは誘拐だが、両親のいない市橋双葉を誘拐しても、身代金は期待出来ないだろう」
じゃあ他には?
「無差別誘拐もありうるが……」
「――No.0
紅葉? 今なんて言った? 聞き覚えがないが……。
と、音無警部が、
「おいおい紅葉ちゃん、さすがにそれはないだろう」
と言った。
No.0? 何かの合言葉か?
たまらず僕は紅葉に質問した。
「なあ。 さっきから言ってるその、No.0ってのは何なんだ?」
紅葉は僕の方を向き、一瞬躊躇いの目を見せたが、すぐに俯き、溜息を吐いた。
「しかたない。 説明しましょう」
紅葉は目を閉じたまま言う。
「No.0の前に、それの元となる話をします。 それは、アビリティと呼ばれるものです」
アビリティ? ゲームでいうところの属性みたいなものか?
「そんな生半可なものではないですね。 簡単に言うならば、異能力です」
紅葉は右手の人差し指をピシッと立てた。
なるほど、異能力ときたか。
「待ってくれよ。 そんな話信じられるか」
「以前、永斗先輩がこの世界に来た時に少し話したでしょう? この世界には、妖怪やあやかしがいると」
確かにそんなことも言ってたな。
まだ見てないから信じられないが、この世界では異能力まであるというのか。
――と、突然机の上から何かが降ってきた。 降下物は机に落下し、ガシャと音を立てた。
……刀か?
よくみるとそれは、刀のような形をしていた。 ような、というと、僕も本物を見たことがないからだ。
「刀です。 今、私が、異能力で出しました
紅葉が言った。
紅葉が出したって?
「これが私の、いえ、白金家の人間の持つアビリティ、投影です。」
「俺も久しぶりにみたな」
どうやら音無警部はすでに知っていたようだ。
それにしても、何も無い空間から突然刀が降ってきたんだ。 紅葉の言っていることを信じるしか……ないな。
「それで、話は戻ります。 No.0。 それは、アビリティを持つ者、《アビリティホルダー》を集めた、テロ組織です」
紅葉は一切表情を変えずに言った。
音無警部は少し、表情が険しくなったようにみえる。
「ん? それがいったい何の関係があるんだ?」
と、僕。
「俺もわからないな」
と、音無警部。
紅葉は、ふふっと不敵に笑い、
「説明しましょう」
と言った。
「市橋双葉が失踪した黒幕に、No.0がいるということです」
「え?」
「ようするに、市橋双葉のアビリティが突然覚醒し、学校前に誘拐されたということです」
!! なるほどな。
話の要点が掴めた。
「無くはないが……」
音無警部はまだ納得できていないようだ。
「はい。 あくまで可能性の域を出ませんし、その可能性も0に近いですね」
紅葉は苦笑いをした。
「確かにそうだな。 僕も他のことのほうが有り得ると思う」
「行き詰まってますよね……」
僕たち三人は皆一斉に溜息を吐いた。
「なぁ、ところでなんだが」
重い空気だったが、最初に口を開けたのは音無警部だった。
「永斗くん。 一人称と口調が合ってない気がするんだけど」
「……気のせいですよ。 きっと」
そんな話か。 正直、そこには口を出さないでほしい。
この日はこれでお開きとなった。
音無警部は、後日また会おうと言っていたので、向こうから連絡があるだろう。
いざ帰るときに、紅葉が「あ、ちょっと待っててください」と言い、音無警部の元へ向かった。 すぐに戻ってきたのだが、何を話していたのだろう。


家(紅葉の家だから自宅ではない)に帰り、俺はそのまま使わせてもらっている自室へと向かった。
自室にはいり、僕はそのまま布団に寝転んだ。
少し休んで、考えをまとめたい。
一番気になっているのは、アビリティについてだ。 やはり、異能力というからには、僕も少し気になる。
紅葉は、『投影』というアビリティを使っていた。 おそらくだが、物体を元にした偽物を浮かび上がらせる、または、作り出す力。
白金家の人間のアビリティと言っていたからには、雪も使えるのだろうか。
それと、市橋双葉が本当にアビリティホルダーとなっていて、その……なんてたっけ、ああそうそうNo.0だ。 そのテロ組織に誘拐されていたとしたら。 紅葉はどう立ち向かうのだろう。 音無警部と知り合いだったことや、高校生にも有名だったことから、以前にも事件解決などの功績をあげているのだろう。
……あぁ、眠くなってきた。 少し、仮眠でもとるか……。



「起きてください先輩!!」
どこからか声がする。 ああそうか、寝てたんだった。
「起ーきーてー!! ください」
紅葉の声だ。 なんだ、うるさいな。
気だるい体にムチをうち、手を床について起き上がる。
起き上がると、目の前には紅葉と雪がいた。
「よう白金秋冬姉妹。 なんのようだ」
「高校に行きます」
と、雪。
高校? また後日じゃなかったのか。
「事態が変わったので、とにかく新見高校にと」
新見高校に? 音無警部が呼んでるとかかな。
「ほら、早く行きましょう先輩」
紅葉がこちらに手招きをしながら自室をでていく。
雪は溜息を吐きながらそれについていった。
……連れ回されてるのかな。
バタンという音と共に、ドアが盛大に閉められた。
さて、もう一眠りしようか。
いや、本当に音無警部だったら申し訳ないから、ついていこうか。
嫌々ではあったが、俺は重いドアを開けた。
家を見回したが、既に二人の姿は無かった。 先に行ったのか?