菊月或斗@幾何学世界紀行

どうも菊月です。ブログのほうを始めました。小説やアレやコレを投稿していきたいと思ってます。よろしくお願いします。

幾何学世界紀行 第1章『消失少女』act.1「名探偵・紅葉」

―1―
翌日、記念すべき最初の依頼が舞い込んできた。記念するほどの事ではないし、できるならばさっさと元の世界に帰りたいのだが、そうもいかないのがこの世界だ。
僕、望月永斗が迷い込んだ街の正式名称は「帝都リベリオン」という。この名前は紅葉曰く、はるか昔に都民の反乱が起き、街が滅亡寸前まで追いやられたことが由来らしい。日本人がほとんどなんだから漢名でいいのにな。ちなみに都名であるリベリオン以外は全て漢字の地名になっている。他の街も、都名だけはカタカナ表記だ。最早意味がわからない。
白金紅葉は、この街で「何でも屋」をしている。手紙や電話で依頼を受け、依頼を完了し、それに応じた金額の報酬を頂くという、現実世界で言う「探偵」のような仕事だ。
今朝、白金家のポストに1通の手紙が届いた。それなりに綺麗な手書きの文章だった。内容は、
『私は新見高校の学生です。私の学校では先月から「学校の七不思議」が流行っていました。それで、いろいろな生徒がそれを確かめに夜な夜な学校に忍び込むこうになっています。先週、私の友達も学校に忍び込んだです。でも、それ以来何故か学校にも来ないし、姿を見ないんです。何かあったとしか思えないんです。調べてもらえないでしょうか。』
というものだった。
「これは調べてみるしかないですね!」
という紅葉の独断で、この依頼を受けることになった(のちのち気づいたのだが、こいつは依頼を断るなんてことをしない)。


「私たちも新見高校に忍び込みましょう」
「なんでいきなり忍び込むんだ」
「善は急げです。さあ行きましょう!」
僕の意見は完全無視かよ。
「でもさ、学校の怪談の類って、夜中じゃないのか?」
「んー、そうですね。じゃあ夜にしましょう」
こうして、その日の夜、僕らは新見高校前で待ち合わせをする事になった――。


夜になるまでに一度見に行ってみようと思い、僕は新見高校へと向かった。新見高校は街の中心からほど近く、白金家から徒歩十分程度の場所にあるそうだ。
「どこか外出ですか」
身支度を始めると、白金雪が話しかけてきた。メガネをかけており、いかにも秀才そうな雰囲気をしている。
「あぁ、新見高校を下見しようと思ってな」
「そうですか、気を付けて行ってきてくださいね」
「ああ」
この娘は将来いいお嫁さんになるんだろうな、などとくだらない考えが浮かんでくる。口に出していたらどんな顔をしただろうか。
「紅葉姉さんも何処か出かけましたけど、ばったり会ったりしそうですね」
「え、紅葉のやつ、もう出かけてたのか。そういえば居ないな」
「無駄に存在感無いですからね、姉さんは」
ふふ、とお互い笑ってしまった。


家を出、街の中心へと向かう。やはり、中心に向かうにつれて人が多くなっている。
今日は休日らしく、高校生と思わしい人も沢山いた。
しばらく歩き、新見高校に辿りついたが、ここで疑問を感じる。
――白金紅葉はどうやって入るつもりなんだろう。初歩的ではあるが、まさか不法侵入ではないだろうな……。
と、考えていると、門から紅葉が出てくるところが見えた。やっぱりいやがったか。
「おい紅葉!」
「あ、永斗先輩? なんでいるんですか」
声を聞くと、笑顔で手を振りながらこちらに近づいてくる。……ちょっと可愛いなと思ってしまった自分が悔しい。
「僕は新見高校を下見しておこうと思ってきたんだ。お前こそなんで門から出てきたんだ?」
「ここの校長に、今夜ここの学校を調べさせてくださいと頼んで来たんです」
「それで?」
まあ聞かなくてもわかる気がする。コイツのむちゃぶりに応えられるほど、安い世の中ではないだろう。
「おっけー、もらいました」
「嘘だッ!!」
「嘘じゃないですよもう」
信じられない。というよりかは信じたくない。無理やり押しかけて来たやつにあっさりと許可を出すなんて、ここの校長はなんつー神経してやがるんだ。
「この街で『白金紅葉』の名を知らない者などいませんよ」
「いくら嘘を重ねられてもなあ……」
と、返すと、門から部活帰りと思わしき女子グループが出てきた。
「……あれ、探偵の白金紅葉じゃね?」
「マジ? ……うわっ本当だ。本物初めて見た」
「じゃああの男誰? まさかカレシ?」
……聞かなかった事にしようか。
「聞こえました?」
「いや、全然聞こえなかったな。全然」
「聞こえてたみたいですね。まあそういうことですよ」
仕込まれているとも思えないし、どうやら本当の事のようだ。てか、探偵ってことになってんのかこいつ。
「何でも屋なんて名前、ダサいじゃあないですか。なんで、探偵と名乗ってるんです。永斗先輩は助手ですよ助手。誇りに思ってくださいね」
「誰が思うか」
「キャー冷たい永斗先輩もカッコイイデスネ」
うざい。
「てか、お前忍び込むとか言ってなかったか?」
「あ、せっかく永斗先輩が来たんですし、もう少し調査しましょう!」
スルーかよ。華麗すぎるスルーは時に人の心を傷つけるぞ。
「調査って、何をするんだ?」
ここはこちらも何もなかったように振舞おう。
調査か。まあ聞かなくてもわかる気がするが。どうせ、『調査は調査です。まずは聞き込みから行きましょう』とでも言うんだろう。
――予想は見事に的中した。紅葉は、手紙の主と、消えた生徒の名前ぐらいは突き止めないと話にならないらしい。
正直のところ、手紙を送ってくるなら名前ぐらい書いといてくれ。
校内に入ると、部活で来ている生徒たちがわんさかと寄ってきた。本当に人気者なのか? こいつ。人気なのは分かったが、僕をかってに彼氏にするな。騒がれるじゃないか。
僕と紅葉は失踪した少女のいたクラスに向かった。
「あ、白金紅葉さんですか!? 私、ファンなんです!」
と、一人の女子高校生が近寄ってきた。カレシですか? と聞かれるのも嫌だが、完全にスルーされるのはそれはそれで悲しくなるな。
「今日は何しに来たんですか?」
「調査よ調査。そうそう、一週間ぐらい前から誰かが行方不明になってない?」
「……」
さすがにストレートすぎるんじゃあないかい。
この言葉をきっかけに、周りは静まり返った。ほれ、言わんこっちゃない。
場は静寂に包まれた。
「双葉、市橋双葉です」
静まり返った雰囲気を打ち壊すように、その少女は言った。
どうやら失踪した少女の名は市橋双葉というらしい。
「私です。あの手紙を送ったのは」
「貴女? 名前ぐらい書いといてよね。わかんないからさ」
「あ、すいません」
「で、名前は?」
紅葉が問うた。
「私は音無結花といいます」
「結花ね、おっけーおっけー」
なんで僕以外の人間にはそんな態度なんだよ。
この後は、市橋双葉の失踪前の様子などを聞いていた。紅葉が途中、窓の方を見て固まっていたので、「何してんだ」と聞くと、「ん、何でもないです……多分」と返してきた。まじで何なんだこいつ。
「あ、紅葉さん。事件のことなら私のお父さんに聞いてみてください。『鬼の音無』って呼ばれてる刑事、知ってますか?」
結花の父は警察官なのか。それも鬼の音無って異名持ちの警察官。
「音無警部のことね。あの人担当だったんだ」
紅葉は知っているようだ。
「うぅん、よし、永斗先輩! 警部に聞きに行きましょう!」
やっぱりな。
「へいへい」
と曖昧に返し、紅葉に続いて教室を出ようとする。すると、
「あの紅葉さん! その永斗先輩って人、彼氏ですか?」
結花が聞いてきた。市橋双葉の話の時とは目の輝きが違っていた。
「そう思う? 実はその通りなの」
「うん違うよ? 僕と紅葉はそんな関係じゃないからね?」
「でも、同じ家に帰ってるところ見たって……」
もう出回ってるのか。スター扱いだな紅葉。てか、おそるべし高校生ネットワーク。
「もうそれでいいよ……」
「あ、永斗先輩諦めましたね? もう、往生際の悪い」
ダメだこいつ、早く何とかしないと。
人の集まっていない教室の隅で、カタッ、と音がした。……風だろうか?
僕と紅葉は鬼の音無こと、音無伸司の元へ向かった。