菊月或斗@幾何学世界紀行

どうも菊月です。ブログのほうを始めました。小説やアレやコレを投稿していきたいと思ってます。よろしくお願いします。

秘封倶楽部と揺蕩うセカイ #1

この物語は差し当たり、1冊の本から始まる――。

―1―
夏休み。私は、亡くなった祖母の部屋の掃除をしつつ、なにかおもしろい本がないか本棚を物色していた。祖母は調べごとが好きで、気になる事件などがあるとすぐに調べようとする。私も同じような癖があり、祖母に似ているようだ。新聞のスクラップや雑誌、芸能人の書いた本などいろいろな本がある中、私は一冊の本に目をつけた。
「――宇佐見菫子……?」
私、宇佐見蓮子と同じ苗字に目を奪われる。
「……あっ」
途端、私は祖母のデスクへと向かった。確かではないが、祖母の日記に宇佐見菫子の名が記されていた覚えがある。祖母のデスクに仕舞っておいたはずだ。
「えっと……お、あった」
おおよそ20冊の日記。この日記はだいぶ前のもので、最後の方のページが破れてしまっていたが、辛うじて読めるところを見てみた。すると、このような文章があった。

8月17日 土曜日 晴れ
倉庫の古書を整理していたところ、祖母、宇佐見菫子の日記を見つけた。どうやらオカルトの類いに興味があったそうだ。しかし、その日記には不可解な点があり、中学生から欠かさずに書いていたのにも関わらず、不自然に日記が終わっていたのだ。最後の日記には、『別の世界を見つけたかもしれない。明日から、確認しようと思う。』と書かれていた。母から聞いた話だと曾祖母は消息不明になっているそうで、この日記が関

その後は破れていて読めない。何年以上前の話になるのだろうか。この本も別の世界を見つけたことについて書かれているが、発売されたわけではないみたいだ。うちの家庭に語り継がれている、そんな感じなのだろうか。
「別の世界……幻想郷……」
別の世界は幻想郷というらしく、地続きになっているのにも関わらず、人が入れなくなっているらしい。
「あら、おもしろそうじゃない」
オカルトグループ、秘封倶楽部の一員として、とても興味をそそられる話じゃないか。これは調べるしかない。そう思い、私はもう1人のメンバー、マエリベリー・ハーンこと、メリーに電話をかけた。


―2―
「――違う世界ねぇ」
揺れるバスの中、私はマエリベリー・ハーンこと、メリーに先日電話で話したことについて話していた。
「どうやら宇佐見菫子さんは私たちと同じ大学の出らしいのよ。しかも秘封倶楽部を名乗ったオカルトグループの会長だったらしい」
あれからもう少し宇佐見菫子の本を読んでみたところ、いろいろな事がわかった。まず、私たちと同じ大学の出だということ。二つ目に、私たちと同じく、『秘封倶楽部』を名乗ったオカルトグループの会長だったということ。
「それにしても、秘封倶楽部が前にもあったなんて。蓮子、パクッた訳じゃないでしょうね」
「あら、そう思った?私も驚いたわよ。偶然ね」
そんなたわいもない会話を繰り広げていると、大学前のバス停についた。
「それで夏休みにわざわざ大学に連れてこられたわけね。まぁ興味あるけど」
「だいぶ前からいる先生とか当たってみる?」
「60年以上前の話でしょ?そんな前のこと覚えてる先生いるのかな」
確かに、と頷きつつ、まずは校内の図書館に向かうことにした。この大学の図書館はそこそこに大きく、部活やサークルの活動記録などが置いてあった気がするとメリーが言っていた。図書館は開放してあったため、簡単に入ることができた。
「……えっと、確かこのへんに……あったあった」
どうやら見つけたようだ。周りにちらほらと大学生が見えるが、各自レポートの資料などを探している。
「メリーちょっと見して……」
私はメリーから秘封倶楽部の活動記録を受け取った。
「こんなサークルの活動記録まであるなんてね。予想外だわ」
「ほぼ全部のサークルで記録があるみたいよ。私たちのは2人だけだし、あまり周りに言ってないし、知らなくても当然かな」
秘封倶楽部は84年前の2012年にできたみたい。随分と前じゃない。記録の最後は2016年だから、宇佐見菫子さんが大学に居た時だけあったのかしらね」
オカルトグループだっただけはあり、都市伝説や怪奇現象など、たくさんのことが書かれていた。
「四冊あるから1年に1冊って感じね。宇佐見菫子さんが消息不明になったのは大学3年の時なのに、四年生の時の記録もあるのはなんでだろう」
母も少し祖母から話を聞いていたらしい、詳しいことはわからないが。
「ねぇ蓮子、ちょっとコレ見て」
メリーが何かを見つけたようだ。
「ん……どうかしたの?」
「1冊目に書いてあったんだけど、『高校に引き続き、秘封倶楽部をこの大学にも作ることにした』って」
高校……か。大学生の時の話しかしてなかったけど……どういうことだろう。母の話、別の世界について書かれた本、そしてこの活動記録。矛盾してきた。
「――ちょっと蓮子、聞いてる?」
「あぁごめん。それで?」
「どうやら宇佐見菫子さんが幻想郷を見つけたのは高校生の時みたい。でも、大学ではあまりその話には触れてないみたいだけど」
本には書かれた年や見つけた時などは書かれていなかったし、高校生の時の話は母が知らなかったと考えるのが妥当だろうか。
「なるほどね、大学では別の世界については触れていなかった……なのに大学3年で失踪ね……」
「これは高校生の時の話、別の世界を見つけた時を調べなくちゃいけないわね」
かなりこんがらがってきたが、どうやら大学の時の話は、何故失踪したのかを調べるまでは保留。今は高校生の時の、幻想郷を見つけてから大学生になるまでを調べるのが優先。
「じゃあ、宇佐見菫子さんが何処の高校だったか、調べましょう」
「そうね、でも、どうする?」
……考えてなかったなんて言えない……。実家に行けば何かわかるかな。
「……とりあえず、私の実家に行ってみよう。何かわかるかも」
「実家って……東京のほうだったかしら」
遷都されて首都が京都になってから、京都から東京へいくことはあまりなかった。
「あれ?なんで実家は東京なのに京都の大学にいたのかしら?」
「この大学は昔からかなりのエリート校だったからね。相対性精神学とかも、他の大学にはあまりないでしょうし」
「さすがは蓮子ね。じゃあ、明日にでも行きましょう」
「明日の電車のチケット取っとくわね」
そんなこんなで東京の実家に行くことになった。遷都があってから半分田舎みたいになっている東京だが、電車ですぐに行けるし、日帰りできるだろう。明日はなかなか――忙しそうだ。