菊月或斗@幾何学世界紀行

どうも菊月です。ブログのほうを始めました。小説やアレやコレを投稿していきたいと思ってます。よろしくお願いします。

秘封倶楽部と揺蕩うセカイ #4

―7―
「なんていうか……すごい……コレジャナイ感が……」
「幻想的じゃないと言ったら嘘になるけど……」
私たちは博麗神社裏から境界を越えることに成功した。が、超えた先、境界の向こうには、一面黒の世界――木や空など、全てが暗い色で包まれている――があった。
「現実の神社もボロっちぃけど、ここはだいぶ酷いわね。 核戦争でもあったのかしら」
メリーが神社の柱を指でなぞりながら言った。
「ところで、これからどうすんの?」
菫子がメリーに向けて言った。おいおい私には見向きもしないのか。私はあからさまに不満そうな顔をした。
「ちゃんと神社に出れたってことは、この先に街があるってことじゃない? 歩きましょう」
ほぼほぼ間を開けることなく、メリーが即答した。やはり、頭の回転が早いなと、つくづく思う。
そうして、私たちは街に――まだ街があるという証拠はないが――向かうことに決まった。


――そこは最早街とは言えないような、殺風景な場所だった。焼け落ち、ボロボロになった家が並んでいる。空襲のあった場所はこんな感じだったのだろうか、と思った。
「……ほぼ全壊ね」
独り言のように菫子が呟いた。
が、私にはまだ希望が見えていた。希望……というよりか、唯一人気のある――窓から明かりが漏れていた――家を見つけた。
「少し遠いけど、あそこの家、微妙に光が漏れてない?」
メリーは頷きながら、
「……うーん、よく見えないけど、それっぽいわね。 てか、蓮子見えるの?」
と言った。私は、
「まあ視力には自信があるからね」
と、呟いた。そして、私たちはその家に向かうことにした。
その家は所謂街角にあったため、少し歩くことになった。
歩いているうちに、夜が近づいてきた。私は、空に浮かび上がった月を見て、今居る場所を特定した。
「えっと……一応日本みたい。 幻想郷じゃないみたいね」
「相変わらず気持ち悪い目ね」
メリーが苦笑いしながら言った。
「貴方も異能力者だったのね」
菫子は驚いたような顔をしていた。……わからなくもないが。
歩くこと数分。目的の家にたどり着いた。インターホンは見つからない。私は、思い切って呼んでみることにした。
「誰かいますかー?」
……暫く待ったが、中から返答はなかった。
「すーいーまーせーんー!」
隣のメリーが叫んだ。
すると、家からドタドタと大きな音がした。ガチャ、と勢いよくドアが開いた。――現れたのは、1人の少女だった。
「ハァ……ハァ……あ、あなた達は……誰?」


「……なるほど、そんなことが……」
少女は名を冴月麟と言った。親と乗っていた飛行機で飛行機事故に遭い、気がつくと、見たことのない世界にいたと言う。見た目こそ小さいが、歳は私たちと同じかそれ以下らしい――色々な世界を周り、時間軸がわからなくなってしまった――。冴月は、離れ離れになった両親を探すために色々な世界を歩き回っていた。冴月の両親は、結界についての研究をしており、結界を目視できるメガネを作っていた。冴月は両親からそれの試作品を貰っていた。この世界にとどまっていたのは壊れそうだったメガネを治すためだった――技術は両親から教わっていた――。
「それにしても驚きました。 まさか人に会うなんて」
「私たちもあまり人にはあわないものね」
私はメリーに問いかけた。メリーは、小さく首を縦にふった。
「てか、また私最年少か」
菫子が今にも消えそうな声で呟いた。メリーと私は、少しだけ笑った。
「あ、そうだ。 えっと……麟だっけ? それ、いつ治るの?」
私は、メガネを指差しながら言った。サングラスみたいだなと思った。
「まだ暫くかかりそうです」
「そう、じゃあ……」
「私たちと一緒にこない?」
私が言おうとした刹那、隣のメリーが言った。横取り止めて。
「ありがたいんですが……」
「ああ、そのメガネならいらないわよ。 私普通に見えるし」
メリーが当然でしょうとでも言いたげな表情になった。冴月は信じられないようで、少し顔に陰りがみえた。
「まあ信用ならないならついてきなさい。 嘘か真かはその目で確かめなさい」
やはり人を乗せるのがうまい奴だな、と私は感心した。冴月は、戸惑いながらもついていくことにしたようだ。


「んーこのへんね」
私たちは博麗神社裏へと到着し、今から帰還するところ。すっかり夜は更けていて、あたりは真っ暗だった。
「――っ、すごい」
冴月がメガネに指を当てながら言った。メリーが示した結界は確かなようだ。……サングラスみたいな見た目だけど、この暗さでよく見えるな……。
私たちはその結界に足を踏み入れた。境界を超える時、一瞬なのかはわからないが、意識を失ってしまうのにはどうも慣れない。そんなことを考えているうちに意識はプツンと途切れた。


――目を覚ますと、夜なのにも関わらず、街はとても明るかった。何事かと目を擦ってみる――街が燃えていた。
「蓮子!? 起きた!?」
メリーの呼ぶ声がする。随分と焦っているようだ。
「どうかしたの?」
1度深呼吸をし、冷静になろうと試みる。
「ここにいたらまずいわ! 今までとは比べ物にならない大きさの結界が崩壊してる! 巻き込まれたら終わりよ!」
「――終わりと言われてもねぇ」
口を挟んできたのは菫子だった。以外にも、1番冷静なようだ。
「どうするんですか……?」
冴月は少し動揺していた。声が震えている。
「どうしようかしら……」
燃え盛る街を観ながら話し合いをしているのだが、周りから見ると異様な光景だろうか。冷静すぎると言われてもおかしくない。
「――助けてやろうか?」
突然、だが聞き覚えのある声。声の主の方向へ目を向けると、博麗神社の屋根の上に、あの紅白巫女が座っていた。
「私はどうでもいいのだけど、紫の奴が聞かなくてねぇ。 しゃあない、助けたる」
頭を掻きながらたいそう面倒くさそうに言った。……紫?
「さぁて、こっちの世界に招待するわ。 どこに飛ぶかは知らないけどまあ死にはしないでしょ。 んじゃ、またいつか」
「待っ――」
そこで再び意識が途絶えた。



―8―
――マエリベリー・ハーン

「いてててて……ん……んぁ?」
頭を売ったような衝撃。朦朧とする意識の中、周りを見回す。――森の中だろうか? 辺りに人は居ない。どうやらはぐれてしまったようだ。
「うーん……どこだろ……」
蓮子がいれば場所がわかるのに……。立ち上がり、もう一度周囲を見回すが、人影はない。とりあえず歩こうか……。
「――ん? 人間か?」
突然、背後から声をかけられる。声のする方へ体を回すと、そこには一人の少女がいた。金髪で帽子をかぶっており、箒を持っている――魔女、そう言うに相応しい姿だった。
「こんな所でなにしてんだ?」
「ちょっと友達とはぐれてしまって」
見たところ年下だろうが、随分と馴れ馴れしい対応をされ、少し頭に来る。――蓮子と初めてあった時もそうだったか。
「おいおい連れがいるのかよ。 で、どこから来たんだ? 送ろうか?」
「それが……わかんないです」
「わかんない……? ――迷い込んだのか……うっし、じゃ、わたしんち泊まっていきなよ」
「泊まっていく? いや、ありがたんだけど、さすがに……」
「――友達、探したいんだろ?」
……図星だ。あまりに突拍子のない話だったが、彼女なりの親切なのだろうか。それとも何か考えがあるんだろうか。
「そう不安そうな顔するなって。 私は結構親切だぜ? もう夜も遅いし、悪くない話だと思うんだがな?」
「……そうね、お言葉に甘えて、泊めさせてもらうわ」
「おうし、私は魔理沙霧雨魔理沙。よしく!」
魔理沙はグッと親指を立てて、はにかんでみせた。
驚くほど話ができすぎているが、ただの偶然なのだろう。私はそう解釈した。
――時刻は21時19分。全員集合まで、残り10時間33分。


――宇佐見菫子

私は壁に寄りかかっていた。意識が朦朧とし、しばらく視界が曇ったままだった。
前方に森が広がっている。背後には大きな館――紅に染まった、とても大きな館だった――がそびえ立っていた。塀沿いに歩いて行くと、門にたどり着いた。これほど大きな館なのだから、門番くらい居てもいいと思うのだけど。
門に手をかけようとした刹那、門が開き、思わずバランスを崩してしまった。
「うわっと」
「おっと、大丈夫ですか?」
バランスを崩した私を支えてくれたのは、メイド服を着た少女だった。
彼女の名は十六夜咲夜という。この屋敷、紅魔館のメイドをしているらしい。
私と咲夜は屋敷の主である人物のいる場所へと向かった。今は食事中らしいので、少し待ってから行こうかと提案したが、問題ないとのことだった。
「全く、今日は客が多いわ」
「客が多い?」
「貴女の他に3人ほど。2人は如何にも怪しそうだったから私が追い返したけど、1人はお嬢様にひどく気に入られて。お嬢様と一緒にお食事中ですわ」
「へぇ。私は怪しそうに見えないの?」
何も言われずに屋敷の中に案内されていて、心做しか不安だった。
「あら、私の勘は鋭いのよ」
「そう」
「ところで、貴女名前は?」
「宇佐見菫子」
「ふーん」


「あ、菫子さんお久しぶり……って程でもないですね」
先客は冴月麟だった。冴月は、この屋敷の主に、この世界に来た経緯を話したところ、「面白いじゃない」と、気に入られたようだった。
「ん、貴女。冴月の知り合い?」
「あっはい、宇佐見菫子と申します」
「あぁ、貴女が菫子なのね。私はレミリアレミリア・スカーレットよ。よろしく」
レミリアと名乗った少女は、そう言ってニヤッと笑った。
――何者だ? こいつ。背中から生えた羽。笑った時に見せた八重歯。吸血鬼を連想させる少女が、この屋敷の主? 嘘だ。こんな小さな少女が、こんな大きな屋敷の主な訳がない。
「こんな小さな少女がこんな大きな屋敷の主な訳がないとでも思ってる? 残念ながら、私はもう500年以上生きているの。私は吸血鬼だから」
私は驚愕した。まるで心を読まれたように、彼女は私の聞きたいことを全て答えた。
「話は冴月から聞いてるわ。どうぞ、貴女も食べていって?」
「美味しいですよ」
「じゃあ、遠慮なく」
気がつくと、そこに咲夜はいなかった。ドアの音は聞こえなかったのだけど……。


「ふーごちそうさまでした」
「美味しかったです」
「それは良かった。そうだ、貴女たち、今日泊まるところは?」
「ない、ですね」
「じゃあ、泊まっていきなさい」
レミリアは、全てを見透かしたような目をしている。
咲夜、部屋を用意して。2つね」
咲夜? この部屋に咲夜さんはいないのだけれど。――瞬間、レミリアの横に咲夜が現れた。
「承知しました」
そう言い残し、咲夜は消えた。私――恐らく冴月も――は今起きた事を理解できていなかった。
「驚いた? 咲夜はね、時を止められるの。でも――」
時を止められる? ということは、咲夜は人間じゃないのか。
「――貴女たちもたいして変わらないでしょう?」
――何故知っているんだ? 確かに私は俗に言う超能力者だ。私は好んでは使わないので、蓮子やメリー、冴月の前では力を使っていない。未来から来た蓮子たちは知っていたとしても、冴月は知らないはず。じゃあ――レミリアはなんで知っているんだ?
「お部屋が準備できました。どうぞ」
ドアの前に咲夜が現れた。やはりドアの音はしなかった。


咲夜さんって超能力者か何かなの?」
「違うと言ったら嘘になるけど」
「因みに私は超能力者よ。きっと」
「そうなの」
「物を動かすとかそのへんね。私は嫌いだけど」
たわいもない話をしていると、私たちの泊まる部屋に到着した。


しばらく部屋にいると、ノックもなしにレミリアが入ってきた。
「そうそう、言うの忘れてたけど、明日は博麗神社に行くといいわ」
「博麗神社? なんでまた」
「そこに行けば……蓮子だっけ? そいつらと会えると思う」
「……ありがとうございます」
「感謝なら冴月にしなさい。外の世界の人間に私がここまで優しくするの、たぶん初めてよ」
……つくづくわからないな、と思った。


――「……さすがでした。お嬢様」
「まあね。これでも紅魔館の主だから。そういう咲夜もなかなかの演技だったわよ」
「そんなことはないですわ」
「ふふ……さあてと、聞いてるんでしょう? ――ねぇ、紫?」
「――さすがはレミリア。気づいてた?」
「当然よ。ところで、あいつらを博麗神社に集めて、何する気?」
「内緒よ」
「ふーん……。また面倒事起こさないでよ?」
「わかってるわよ……全く」
――